田中圭が生み出した春田創一の魅力 - #おっさんずラブ が好きな理由-
おっさんずラブの好きなところ
私は死ぬほどおっさんずラブが好きだ。男性同士の恋愛を真正面から描いたキュンキュンさせられるラブコメ。それに体当たりで挑む俳優陣、スタッフ陣。脚本やお芝居はもちろん、ロケ現場、セット、小道具、劇伴何もかもに製作陣の愛が詰めこまれていて、こんなに好きになるドラマにはこの先一生出会えないのではと思うくらい本当に本当に大好きだ。
こんなに好きで好きでたまらないが、ある部分が異なっていれば、ここまでハマらなかったとおもう点がある。それは主人公春田創一の性格だ。
単発版と連ドラ版の春田創一
おっさんずラブは2016年に深夜ドラマとして単発版が放送され、2018年に連続ドラマが放送されている。設定の違いはあるにしろ、同性の上司と後輩から言い寄られる点は同じであり、連続ドラマの2話までは似たようシーンも見られる。主人公は春田創一、演じたのは田中圭であるが、単発ドラマと連続ドラマでは春田創一の性格は大きく異なっている。
単発ドラマ版の春田は後輩からのキス未遂に激昂する。男性から言い寄られることに対して強い拒否を示し(周りからの偏見の描写もある)、表情や態度にそれが表れている。最後には上司、腐れ縁の同期、後輩の中から後輩を選ぶものの、その選び取るまでの感情は曖昧なまま終わる。
一方、連続ドラマ版の春田は後輩からのキスに戸惑うものの激昂はしない、男性から言い寄られることに対しても戸惑いはするものの強い拒否は示さない(周りからの偏見の描写なし)。最後には自らの強い感情のもと後輩を選ぶ。
春田の同性愛に対するリアクションや周りからの偏見についての描写の違いはLGBT当事者を傷つける恐れがある描写は行わないというポリシーがあったためと俳優陣のインタビューからうかがわれた。では、単発ドラマ版と連続ドラマ版で春田が後輩に向ける感情の強さの違いは何が生んだものなのか。
わたしはひとえに田中圭の演技によるものと考えている。
シナリオ上の春田創一との違い
連続ドラマ版では放送終了後にシナリオをまとめた本が出版されている。これを読んでまず驚いたのが春田のセリフの細かい付け足しやカット、リアクションの違い、言い方の違いが多くみられ、その違いによって単発ドラマ版の春田と性格の違いが生まれている点だった。1話で買い物をして帰る途中の牧に対しシナリオ上の春田は「偉いじゃん」と言い、3話ではちずに対し、「休みの日ぐらいちょっとは店、手伝ってやれよ」と言うが、ドラマ内でそれらの発言はカット、変更されている。田中圭が春田を演じる中で、感情の流れから発言をしなかったと言うことも考えられるが、これらを言うと言わないでは性格の印象が異なる。
また、5話では付き合い始めた牧に対し、シナリオ上の春田は、檸檬ちゃんを「かわいいというか国民の妹」と評する牧に対し「いや、かわいいよ!」と念を押すが、ドラマ内ではこの「いや、かわいいよ!」がカットされ、続けて牧が発言をしている。これは上記2つと異なり、春田の発言を変えるというものではなく、会話の中からまるごと無くすことになるのでおそらく相談の上カットしていると考えられる。5話時点では半分流されたように付き合い始めたものの、付き合っている牧に対して、女の子のことを「かわいいよ!」と念を押すことはしないという解釈がうかがえる。
このように連ドラ版の春田創一の性格は田中圭によるシナリオからの細かな変更によって形づくられたといっても過言ではない。部長と牧に好かれるように、好かれることに不自然さが出ず、視聴者からも愛される春田創一は田中圭の力によって生み出されていた。
部長への愛と牧への愛
7話で春田はわんだほうにて武川に部長が好きなのかと問われ、「好きですよ!」と力強く答える。結婚式場ではハグを求める部長に応じる。その後、春田は部長との誓いのキスができず、牧への気持ちに気づき、牧を探しに式場を飛び出す。牧に対し力強く好きだと叫び、真正面から抱きしめ、物語は春田からのキスで終わる。
力強く好きだということも、正面からハグをすることも部長に対してできるが、ただキスができないという描写は部長への愛と牧への愛の明確な違いを示しており、部長に対しては父性を、牧に対しては恋愛感情を持つことを示す場面だと解釈できる。部長に対して力強く好きと言い、ハグにも応じることによって牧への恋愛感情が際立っているのだ。
では、シナリオ上ではどのように描写されているのか。シナリオ上の春田は武川に部長が好きか問われ、とても曖昧に自信なく答える。結婚式場では入場前の部長からのハグを断っている。わたしはシナリオ本を読んだ時ここが一番衝撃だった。シナリオ上の描写は単発版と同様に曖昧な感情で牧を選んだと受け取りかねないものだったからである。物語の根幹に関わるとても大事なシーンの印象さえ田中圭によってシナリオから変更されているのだ。
おっさんずラブの魅力
おっさんずラブの魅力は数え切れないほどあるが、多くの人が挙げる魅力として林遣都による牧凌太の演技は外せないだろう。わたし自身、4話からリアルタイムで視聴していたが、一途に春田を思う姿、言葉には出さない目が語る感情に胸を焦がし、牧の幸せを心の底から願った。これは林遣都による嘘のない演技によるものと断言していいだろう。
では、春田がシナリオのままでも、牧があの牧ならおっさんずラブをここまで好きになれたのか。答えはNoだ。おそらくシナリオのままの春田なら私はおっさんずラブではなく、牧凌太だけ好きになっていたと思う。牧凌太の感情にリアリティーを生み出したのは林遣都だが、その相手としてふさわしい、あの牧が辛い想いをしながら想いを寄せても仕方ないと思える春田創一でなければわたしはおっさんずラブをここまで好きになれなかった。
最後に
おっさんずラブの魅力は本当に本当に数え切れないほどあり、見るたびに新しい魅力に気付く。スタッフ、キャストの力が集結した愛ある作品だ。その真ん中にいる、愛を受け止める存在である主人公春田創一が、きちんと愛すべき存在として作品が成り立ち、視聴者に違和感を与えないのは田中圭の演技によるものだ。
田中圭の"牧と部長から設定上ではなくきちんと愛される存在に" という春田創一を演じる上での意識は作品自体が愛される存在になるために必要不可欠なものだった。
おまけ
わたしは湖に沈んでる林遣都のオタクなので、わたしの好きな牧くんのシナリオからの変更を挙げていく。
・2話 春田さんの悪いところ10個目
→寝てないアピールをする場面が2話までにはないため(牧は知らない可能性が高い)、うつ伏せに寝る(作中描写があるもの)に変更する事で2人の送った生活にリアリティーが出る。3話でちずが 春田の疲れたアピールを指摘するが、ちずは春田と幼馴染として過ごした年月が長いため、春田が疲れたアピールをすることを元々知っていることがうかがえ、春田が牧とちずそれぞれと過ごした日々の長さの違いを感じることができる。
・4話 春田と夕飯を食べる場面。
奥さんのことですか? から 破壊神のことですか? への変更
→ 破壊神というパワーワードを再利用。牧凌太もとい林遣都のユーモアがうかがえる
・6話 餅がゆを食べる牧
→素直ではないものの食べることで感謝を伝える
春田との会話(デート中など)の中での変更点は抜きにすると牧のセリフの変更はあまりない。
セリフよりも表情や瞳の揺れ、しぐさで言葉には出ない感情表現をおこなっている部分が多いためと考えられる。
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