チャイメリカ 感想
正義はいろんな要因によって変化する。
めちゃくちゃ小さいことで例えると、西日本と東日本の文化の違いもそうだ。私は昔お稲荷さんの形で西日本出身の先輩と口論になったことがある。先輩にとったら三角の形のお稲荷さんこそが正義であり、私にとっては四角いお稲荷さんが正義だった。
育った環境や受けた教育、見たもの、聞いたもの、経験によって考え方が変わるように信じる正義も変わる。
チャイメリカは天安門事件で撮影された一枚の写真を通して正義というものの危うさを示していたように感じた。
アメリカ人ジャーナリストジョーが天安門事件で撮影した一枚の写真に写る戦車の前で袋を持って立ち尽くす1人の青年(戦車男)がまだ生きていることを友人の中国人ヂァン・リンに告げられ、青年を探すため東奔西走する。その中で自分の正義を貫くあまり、上司や同僚、恋人、さらには他人の人生まで巻き込んでいく。しかし、巻き込んだ末にたどり着いた答えはジョーが求めていたものではなかった。
リンが生きているといった戦車男は袋を持って立ち尽くす男を打とうとしなかった戦車に乗った男だったのだ。
アメリカ人のジョー、中国人のリン、生まれ育った国、教育が異なることから同じ写真を見てもヒロイズムを感じる部分が異なっている。ジョーを主人公としてみていたこともあるが、私も資本主義社会である日本で生まれ育っていることから、写真を見たときには立ち尽くす青年にヒロイズムを感じてしまっていた。
ジョーとリンには他にも対比になるように描かれていた部分がいくつかあるように感じられた。
ジョーは正義を信じるあまり周りの幾多もの人々を傷つけていく。リンは天安門事件で失った妻にとらわれながら、公害問題を隠そうとする国に異議を申す形で正義を信じるあまり自らを傷つけていく。舞台装置に関しても様々なところに足を運び情報を集めるジョーに対して、リンは部屋に閉じこもりパソコンに向かっている。
まだ、ジョーは自分の過去の栄光のために正義を貫くが、リンは公害に苦しめられる隣人のため、はたまた亡くなった妻のために正義を貫く。
観劇しながら、このヒロイズムの様々な二面性がテーマなのか?と考えていた。しかし二面性があるように見えて結局2人が行なっていたことは同じであることに気づいた。
ジョーも過去の栄光という自分のため、リンも妻を守れなかった自責の念を解消するため、2人とも自分のために正義を貫こうとしているように感じられた。
自分の正義が人にとっては正義ではないこと、正義は様々な要因によって異なるし、貫くことで自分も周りも傷つけることがある。正義というものの定義がいかに危ういかということを考えさせられた。
様々な感想を見ているとリンに感情移入している方が多く、ジョーの気持ちがわからないという意見をよく目にしたので、ジョーについても考えてみる。
19歳の時に撮影した戦車男の写真はあまりにも有名だが、41歳のジョーは仕事があまりうまくいっていない。そんな時に友人から自らの栄光のきっかけになった青年が生きてることを知らされる。撮影したいと再び栄光を手にしたいと青年を追い求める。上司、同僚に見放され、恋人をおざなりにし、時には人を脅しながら情報を手に入れ、挙げ句の果てに中国人夫婦の人生をめちゃくちゃにする。
青年を探し始めた最初の動機は注目をを集めたいだったのかもしれないが、途中から社会主義の国に立ち向かう青年、自分が信じたヒロイズムがどのような結末を迎えたのか、自分の貫きたい正義がどうなったのかを目にしたいという思いに突き動かされているように感じた。それは大事な人を傷つけようと絶対に成し遂げたいことだったのであろう。
様々な人を傷つけてたどり着いた答えは自分が求めていたものではなく、信じていた正義がいかに危うかったかを突きつけられ、落胆する。
その後ジョーはジャーナリストを辞め、撮りためた写真で個展を開く。
この物語の最大の結末はリンが袋を持った青年であった点で、それが原因でリンは処刑されてしまう。
それを知った時のジョーのリアクションがとても印象的だった。今までどんな人を傷つけようと自分を信じてきたジョーが涙するのだ。
この時点でおそらくジョーは正義の危うさ、傷つけてきた人に対しての思いがあるのに、一番失ってはいけなかった友人を亡くすことで、取り返しのつかないことをしたことを、求めていた答えを得ると同時に改めて突きつけられるのだ。
この後ジョーがどんな人生を送るのか考えると恐ろしくなる。
演出はアメリカ側は海外ドラマのようで、会話劇も面白く、アメリカン?イギリス?ジョークのようなものが散りばめられ、楽しんでみることができたが、中国側は特にリンの過去のシーンで印象的に使われる赤が鳥肌が立つほど怖かった。また、言語の違いによる会話の不完全さが日本語の語尾に感じ取れ、全て日本語なのに違った言語で話している印象を持つことができた(インタビューで読んだかもしれないが)。
長々と書いたがストーリーも俳優の演技もテーマもとても面白く、心の底から観劇してよかったと思う。
※正義の危うさについては進撃の巨人を読んで、考えさせられていた。進撃の巨人もチャイメリカもこのことを考えさせる設定作りがめちゃくちゃうまい…
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